森を抜けてすぐ――ようやく三人がお出ましになった。俺を一人にしたことに散々文句を言ったが……ゾルダをはじめとして全く意に介してないようだった。それでも愚痴を言いながら、シルフィーネ村へと向かっていこうとした。文句を言いながらも、シルフィーネ村の人たち、特にフォルトナやアウラさんの様子が気になっていた。そんなことを考えていたのだが……歩き始めて直ぐのところで、フォルトナが居るのを見つけた。「あれ? フォルトナじゃん」しゃがみこんで何をしているのだろう。しかもこんなところに一人で……「小娘の娘、ここで何をしておるのじゃ? 小娘は元気かのぅ」「……うん、母さんは元気だよ。 元気過ぎて困るよー」心なしか元気がないような声だった。それでも俺たちに会えたのがホッとしたような感じで、次から次へと言葉が出てきていた。「あのさー、母さんがー……」村へ向かいながら聞いていたのだが……慣れない村長代理の業務で精神的に疲れているのだろうと思うぐらい愚痴が出てくる出てくる。その大半がアウラさんのことである。アウラさんから見れば物足りないところがあって、いろいろと口をだしているのだろう。そういう小言がずっしりとくるってことは良くあることだ。俺にも前の世界で経験がある。「会うなり、溜まっていたものが出たって感じだな。 俺にも経験はあるけど、話半分ぐらいに聞いておけばいいんだって」「そうは言ってもさー わからないことが多くて、都度都度母さんに聞いてるんだけどー そのたびにいろいろ言われてさー 気が休まらないったらありゃしないよー」「そうかもしれなけどさ…… なぁ、ゾルダからも何か言ってあげたら?」俺一人だけでは何ともしようがなく、ゾルダに話を振ってみたが……「ん? 何のことじゃ?」「フォルトナのことだよ! アウラさんがいろいろ言ってくるって」「ごちゃごちゃうるさいから途中からもう嫌になって聞いておらん。 なるようにしかならんじゃろぅ」ゾルダはそっけなくそう答えた。他の二人も「マリーには興味がないことですわ」「私はフォルトナ殿もアウラ殿のことも存じ上げておりませんので……」苦笑いするだけで、特に何も言ってはくれなかった。「いっそのことさー ボクが居なくても大丈夫そうだしー また一緒に連れて行ってくれないか
みんなー。ボクの事を覚えているかな~。そう、フォルトナだよ~。いつ以来の登場かな~。なので覚えていてくれる人は少ないかな~。そのことは置いておいて、ボクは母さんが倒れて、急いで村に戻ったんだけさー。思いのほか元気でそれはそれでよかったとホッとしていたんだけど……もう帰ってくるなり、あれやれこれやれってさー。ボクの事をこき使ってさー。「フォルトナ、あの件はどうなりましたか? それと、これとあれと……」「ねぇ、母さん! あれこれ言うなら、自分でやればいいじゃんかー」「あらやだわ。 この子ったら、私はまだ動けないのに……」「だってもうピンピンしてるじゃん! 代理がいなくても出来るし、なんならボクじゃなくてもいいじゃんかー」「イタタタ…… また急に痛み出したわ。 これじゃ、まだまだ動けないわ。 ということで、頼んだわよ、フォルトナ」こんな感じで、もう文句を言うと痛い痛いっていってさー。ずっとベッドの上から動かないんだよー。本当にズルいんだからー。それでも仕方なく母さんが気にしている村のみんなからの困りごとや依頼ごとをこなしていく。「えっと…… 村のはずれにある井戸の調子が悪くて直してほしいって話だったけー」ぶつくさと文句を言いながら話すボクに、カルムさんがどこからともなく現れた。「そのことは、オンケルにお願いしています」「オンケルさんねー。 あの人は仕事が早いし、きっちりとこなしてくれるから助かるよねー」「村長代理、もう間もなく修理も終わるかと……」「あのさー、その『村長代理』って言うのむずかゆいから止めてくれないかなー」村に戻ってきて、代理の仕事をし始めてからと言うもの……カルムさんはボクの事を以前の呼び名で呼ぶことはなくなった。まだその呼び名には慣れなくて本当に気持ちが悪い。確かに『村長代理』ではあるんだけどねー。それからカルムさんと共に村のはずれの井戸に到着した。そこではオンケルさんが、修理の最後の仕上げにかかっていた。「おっ、お嬢。 あっしの仕事の確認ですかい」『代理』じゃなくて『お嬢』と呼んでくれるオンケルさん。前と変わらず接してくれるのはオンケルさんぐらいかもしれない。「うん、そうだよー。 というか半分以上は、母さんが気にしてさー。 ボクだったら、オンケルさんに任せっきり
武闘大会が終わって数日がたった。終わった翌日には国王から魔族を倒した礼は言われたが、武闘大会のことは特に話題に上がらず……会場を壊した責任も特に何も言われず、危機を救ってくれたことだけを褒め称えられた。城や城下内でも魔族が現れて、勇者が倒したことで話題が持ち切りだった。武闘大会のことはみんなの記憶から薄れているようだった。でも、魔族を倒したのは俺じゃないんだよな……ただ、俺としては人相手に戦ったのはほぼ初めてだったけど……以前よりか強くなった実感は出来たし、武闘大会に出て良かったかな。失いかけた自信もこれで少しは取り戻せたとは思う。まぁ、まだまだ魔族の強い奴らやゾルダやマリー、セバスチャンには敵うとは思えない。人であの域に達することが出来るのかの心配はあるけど、努力は裏切らないし、まずは頑張ろう。自分のペースでやっていけばいいのだ。さてと、次は東の街へ行く話だったと思うのだけど……ゾルダが一向に動かない。最初は俺が方々で説明をしたり、国王に謁見したりでそれを待っているのかと思ったのだが……飲み食いしては寝て、起きては飲み食いしての繰り返し。朝から酒を浴びるように飲んでいる。なんかさらさら動く気なんかないように感じる。俺がゾルダたちが封印さいている武器や装備を持って出発すれば否応なしに動き始めるはずなんだけど……強引に進めるのは気持ちが乗らないので、確認はしてみる。「あのさ、ゾルダ。 そろそろここを出て次に向かわないと……」「そうじゃったかのぅ…… ワシはいろいろあって疲れたからもう少しここで休まないといかんのじゃ」酒臭い匂いを漂わせて、けだるそうにゾルダは応えた。「いや、いろいろやっていたのは俺であって、ゾルダではないだろ? その辺りの話も終わったし……」「……もう少しじゃ…… ここを出ていったらもうこの美味しい酒はしばらくお預けなのじゃ。 名残惜しいのじゃ。 もう少し飲ませるのじゃ」そうだろうと思ったけど、思いっきりぶっちゃけるなぁ。「それはそれでわかるけど、アスビモのことはどうするの?」「…………」アスビモと言う言葉にちょっとは反応したゾルダだが、俺から顔を背けてベッドに横たわってしまう。マリーもゾルダにベッタリで、一緒になって横になっている。「セバスチャン…… なんとかならない?」「
国王の思い付きで始まった武闘大会でしたが、バルバロスとか言う小悪党の所為でお開きになりましたわ。まぁ、国王の思い付きというよりかねえさまがそそのかしたのですが……今は、その後始末というかなんというかで、アグリが説明に追われています。マリーやねえさま、セバスチャンの正体を知られても仕方ないですし。アグリはいつも損な役回りで大変ですわ。それにしても武闘大会でのねえさまの活躍は見事でしたわ。不慣れな剣でのあの快進撃……しばらく触ってないとは思えないほどの剣捌きでした。今、思い出しても、ウットリしてしまいますわ。マリーもあの域に達したいものですわ。あと、アグリは……正直あそこまでやるとは思いませんでしたわ。私と一緒にセバスチャンの訓練を受けているはずなのですが……あのねえさまと対等にやりあうなんて思っても見ませんでしたわ。少しだけですが、見直しましたわ。まだまだねえさまには遠く及ばないですがね。「えっとですね、みなさんを避難させた後に、爆発したところに駆けつけると…… バルバロスと言うやつが、この部屋を滅茶苦茶にしてまして…… そいつを俺が倒しまして……」アグリは身振り手振りで状況を見に来た近衛兵に事情を説明していますわ。慌てたときのアグリはああやって大きな動作でごまかしているのがまるわかりですわ。「それで、この上の穴はなんでしょうか?」近衛兵の質問にさらにしどろもどろに答えているアグリ。そんなに慌てなくてもいいのに。「あぁ……あれは、バルバロスを倒すためにですね…… これ以上会場にも街にも被害を出さないためにも…… 上空で倒すのがいいと思いまして…… 上に放り投げて、倒したということでですね…… …… ごめんなさい。これは私がやりました」アグリは何をあやまっているのでしょうか。ねえさまも珍しく、街中だし被害を最小限に食い止めることを考量しての行動でしたのに。あやまる必要もないことを何故あやまっているかがわかりませんわ。「あのままバルバロスと言う奴を野放しにしておいたらこれだけでは済まなかった思います。 なおかつ倒す際にもいろいろと配慮いただいたようで…… 勇者様には本当に頭が上がりません。 ありがとうございます」「いえいえ…… それでも一部を壊したことには変わりがありませんので……」そこまで遜
「勇者はどこだ! 勇者を連れてこい!」バルバロスとやらはワシに向かってわめきちらしておる。弱いし、五月蠅いし、まったくなんでこんなやつをここに送り込んできたのじゃ。ゼドの奴は良くわからんのぅ。「勇者は今は忙しいのじゃ。 このワシが直々に決勝をぶち壊してくれたお礼をしてやるからのぅ。 しっかりと受け取れよ」ワシはバルバロスとやらにそう言うと、仮面を外し持っていた剣を構えた。どんな風にこやつを料理してあげようぞ。「あの……ねえさま…… 別にもう武闘大会ではないので、剣を使う必要はないのでは?」マリーに言われるまでとんと気づかなかったのぅ。「おぅ、そうじゃったそうじゃった。 言われてみればそうじゃのぅ。 剣なんて邪魔くさくてしかたない」ワシは剣を放り投げ、改めてバルバロスとやらと対峙をした。「お前の事などどうでもいい。 勇者だー、勇者を連れてこい。 お前を倒したところで、俺様には何の得にもならない」相変わらず勇者、勇者の一点張りじゃ。どうせゼドのことじゃ、勇者を倒した奴には四天王に取り立てるなどと言っておるのじゃろぅ。不都合なこと、ワシらがいることは隠してのぅ。「ワシの首もあいつなら喜ぶと思うがのぅ」「そんなことは知るか。 俺様は勇者の首を持って、魔王軍の幹部となるんだー」ん?その口ぶりからするとどうやらあいつはゼドの回し者ではなさそうじゃのぅ。そこらに居る野良魔族か。名前を上げたくて勇者が凱旋してきたこの武闘大会を狙ったようじゃのぅ。「お前はワシの事を知らんのか?」「あぁ、知らないな。 あいにく俺様は下っ端なんか興味がないしな」「ほほぅ。 ワシが下っ端じゃと?」「そうだよ。 たまたま俺様の不意を突いて勝っただけだろ。 まともに戦えば俺様の圧勝だ!」なんかこうも自分と相手の力量がわかっていないアホだと……頭にくるのを通り越して、逆にかわいく思えるのぅ。「では、その実力を見せていただこうかのぅ。 今度はワシが受けてやるから、さっさとかかってくるがよい」満面の笑顔でバルバロスとやらを煽って嗾ける。「そこまで言うなら、俺様の力を見せてやるよ」バルバロスとやらはようやくワシの方を向いて、槍を構えた。「ライトニングスピア!」得意と思われるスキルを発動してワシに向かってくるバルバロスとやら。
「やるのぅ…… なかなかと…… ワクワクさせてくれる」あやつもワシについてこれるようになってきたかと思うと自然と笑いが止まらないのぅ。「さてと…… これはついてこれるかのぅ」その戦いぶりが嬉しくてついついスピードを上げてしまう。「くぅっ……」あやつは苦しみながらもワシになんとかついてこようとしておるようじゃ。その中でもあやつはしつこくワシに聞いてきた。「やっぱり、お前、ゾルダだろ」「何度も何度もしつこいのぅ…… 私はソフィーナだ!」正体を隠して武闘大会に参加してみておるのじゃが、あやつはワシとわかっているようじゃ。しかし……そこは頑として認めんぞ。この間のオムニスの件もそう。メフィストの時もそう。何せほぼほぼ戦っておらぬからのぅ。ワシとしてはもう戦いたい欲でいっぱいじゃった。だから、武闘大会をあのじじいに仕向けたのじゃ。勇者の凱旋という餌で。まぁ、半分はあやつのためでもあるのじゃが……あとはあやつに内緒にことを運んで準備をしてきた。まぁ、魔法は使えんので、全開とは言わんが、それでもヒリヒリする戦いが出来ると思ったのじゃが……最初の相手……なんと言う奴じゃったかのぅ。激戦地から来た、俺が勇者を倒すなどとほざいておったが、よく覚えておらん。口の割には全然歯応えがなかったのぅ。槍の動きは遅いわ、ちょっと小突いただけで吹っ飛ぶわで、準備運動にもならんかった。次の相手も、その次の相手もじゃ。人族と言うのはこんな弱いやつらばっかりじゃったかのぅ。それに引き換え、あやつはやっぱり勇者と言われるだけの事はあるのじゃ。まぁ、ワシが鍛えたのもあるし、セバスチャンの訓練のたまものでもあるがのぅ。今までの奴らに比べたら、桁違いの歯応えじゃ。これぐらいやれると、やっぱり楽しいのぅ。「おぬし、なかなかやるようになったではないか」周りの観客どもも大歓声でワシらの戦いを見てくれている。こうやって注目されるのもまた楽しいし、やる気が出るのぅ。しばらく楽しくてあやつとの駆け引き、競り合いをやっておったのじゃが……あやつもしつこくくらいついてきおる。そろそろこちらも一撃を入れんとのぅ。楽しんでばかりもおれん。慣れない剣を使っているせいもあると思うのじゃが、あやつが思いのほか、やりおる。普段なら、こんな事せずに魔法なのじ